2024年の金価格上昇率は27%、そして2025年には67%(ドル建て)という驚異的な急騰が予測されています。通常の金融資産であれば「バブルの天井」を疑う水準ですが、市場のプロフェッショナルたちはこれを「通過点」と定義し、強気の姿勢を崩していません。
なぜ、これほど価格が上昇してもなお「買い」が推奨されるのか。その背景には、単なるインフレヘッジを超えた、通貨システムそのものの地殻変動があります。
本稿では、暗号資産やコモディティ市場のストラテジストとして、この歴史的な金相場をテクニカル分析とマクロ経済の両面から紐解きます。ビットコインなどの「デジタルゴールド」をトレードする投資家にとっても、この法定通貨の信認低下プロセスは無視できないシグナルとなるはずです。
1. Asset Status:スーパーサイクルの中の「調整なき上昇」
現在の金市場は、数十年単位の強気相場「スーパーサイクル」の真っただ中にあります。
構造的なアップトレンドの定義
通常、資産価格が短期間で急騰すれば、利益確定売りによる深い調整(プルバック)が発生します。しかし、現在の金相場は「下値が堅い」という特異な性質を見せています。これは、投機的な資金(Speculative money)だけでなく、実需に基づいた「持たざるリスク」を意識した買いが支配的であることを示唆しています。
ダイヤモンド・オンラインの報道にもある通り、過去50年で金価格が100倍超となった実績は、金が上がったというよりは「通貨価値が100分の1になった」と解釈すべきです。現在は、この通貨安トレンドが加速している局面であり、トレンド定義としては「パラボリックな上昇トレンドの初期〜中期」に位置します。
株価暴落時の「流動性確保」リスク
ただし、注意点もあります。歴史的に見て、ハイテク株や株式市場全体が暴落する初期段階では、投資家が追証(マージンコール)に対応するために、含み益のある金を現金化する動きが見られます。
したがって、短期的な「連れ安」リスクは排除できませんが、株式よりも回復が圧倒的に早いのが金の特徴です。この一時的な下落こそが、機関投資家が狙う「絶好の買い場」となります。
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2. Macro Correlation:ドルの「兵器化」と無国籍通貨へのシフト
マクロ環境における最大のトピックは、米ドルと金(およびビットコイン)の相関関係の崩壊と再構築です。
「実質金利」とのデカップリング
教科書的なマクロ経済学では、「実質金利(名目金利 – インフレ率)が上昇すれば、利息を生まない金は売られる」とされてきました。しかし、2022年以降のFRBによる急激な利上げ局面でも、金は高値を維持・更新し続けました。
この現象は、市場のテーマが「金利差」から「カウンターパーティ・リスク(信用リスク)」へ移行したことを意味します。ウクライナ侵攻後のロシアに対するドル資産凍結(ドルの兵器化)を見て、新興国は「ドルを持っていれば安全」という神話を捨て、「誰の負債でもない資産(無国籍通貨)」である金へのシフトを加速させました。
デジタルゴールド(BTC)とのナラティブ共鳴
この動きは、ビットコイン(BTC)の投資家にとっても重要です。BTCもまた、検閲耐性を持つ無国籍な資産として設計されています。
中央銀行が金を選ぶ理由は「物理的な実績」ですが、個人やテック志向のファンドがBTCを選ぶ理由は「ポータビリティと希少性」です。ドルの信認低下という同一のドライバーが、GoldとBTCの両方を押し上げる「法定通貨売り・ハードアセット買い」の構図が鮮明になっています。
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3. Supply / Demand Data:クジラの正体と需給構造
オンチェーンデータ分析と同様に、コモディティ市場でも「誰が買っているか」を分析することは極めて重要です。現在の金相場を支えているのは、短期的な利益を追うヘッジファンドではなく、国家レベルの「クジラ」です。
中央銀行による「ガチホ」需要
中国やポーランドをはじめとする新興国の中央銀行が、外貨準備として金を爆買いしています。重要なのは、彼らの行動様式です。
– 購入動機: ドル依存からの脱却、制裁リスクの回避。
– 保有期間: 超長期(国家存続レベル)。
– 売却可能性: 価格が上昇しても利益確定売りを行わない。
つまり、市場から浮動玉が吸い上げられ、供給が絞られている状態(Supply Shock)です。暗号資産で言えば、取引所からコールドウォレットへの大量出金が続き、売り板が薄くなっている状態に等しいと言えます。
2025年秋からの機関投資家参入
さらに需給を引き締める要因として、2025年秋から欧米の機関投資家やファンドマネージャーが本格参入するという観測があります。これまでAI・ハイテク株に集中していた資金が、バブル警戒感から分散投資先として金を選び始めています。
これは、トレンドフォロワー(CTA)などのアルゴリズムが買いシグナルを点灯させ、新たな買い圧力を生むことを示唆しています。
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4. Technical Setup:チャートが示す「青天井」
テクニカル分析の観点からも、金価格は歴史的なブレイクアウトを果たしており、上値余地は依然として広大です。
長期カップ・ウィズ・ハンドルの完成
月足チャートを確認すると、過去10年以上にわたる巨大な「カップ・ウィズ・ハンドル(Cup with Handle)」形成を経て、明確にレジスタンスラインを突破しています。
教科書的には、カップの深さ分だけ上昇するターゲットプライスが計算され、それが2025年の予測値(67%上昇)とも整合します。
オシレーター分析と過熱感
- RSI(相対力指数): 週足・月足レベルでは「買われすぎ(Overbought)」水準に張り付く可能性があります。しかし、強力なトレンド相場では、RSIが70以上で推移し続ける「ダイバージェンスの否定」が頻発します。オシレーターの逆張りは極めて危険です。
- 移動平均線: 短期(50日)、中期(100日)、長期(200日)のすべてが上向きのパーフェクトオーダーを形成中。押し目の目処としては、日足ベースの20EMA(指数平滑移動平均線)や50SMAが機能しやすい局面です。
5. Strategy:ボラティリティを味方につけるトレード戦略
67%の上昇が見込まれるとはいえ、一直線に上がるわけではありません。地政学リスクや経済指標による乱高下を利益に変える戦略が必要です。
エントリーとリスク管理
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コア・サテライト戦略:
- コア(長期保有): 資産の5〜10%を現物ETFや金連動型投資信託で確保。これは「保険」であり、日々の値動きで売買しません。
- サテライト(短期トレード): 金鉱株ETFやCFD、先物を利用。
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押し目買い(Buy the Dip)の基準:
- ハイテク株の調整局面で金が連れ安した瞬間は、絶好のエントリーポイントです。
- テクニカル的には、前回高値のロールリバーサル(サポレジ転換)ラインや、4時間足でのRSI 30付近が短期的な買い場となります。
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ストップロス(損切り)設定:
- ボラティリティが高まるため、通常よりも広めのストップ幅が必要です。あるいは、ポジションサイズを落としてレバレッジを低く抑えることで、ノイズによるロスカットを防ぐのが賢明です。
結論:今は「バブルの頂点」ではない
「こんなに上がるとは」という一般投資家の驚きは、まだ相場が懐疑の中で育っている証拠です。誰もが金の話をし始め、靴磨きの少年がゴールドETFを勧めだす時こそが天井ですが、現在はプロや中央銀行が静かに買い集めている段階です。
ドル崩壊シナリオと地政学リスク(イラン情勢等)が燻る中、金はポートフォリオの守護神であると同時に、最大のパフォーマンス・ドライバーになる可能性を秘めています。


