半導体製造装置(WFE)セクターにおいて、検査・計測装置で圧倒的なシェアを持つKLAコーポレーション(KLAC)に対し、ウォール街から極めて強気な再評価がなされました。1月13日、TDコーウェンは同社の投資判断を「ホールド」から「買い」へ引き上げ、目標株価を従来の1,300ドルから1,800ドルへと大幅に上方修正しました。
本稿では、この格上げの背景にある「ファウンドリ主導の需要加速」という構造的変化と、それがKLAの株価および半導体セクター全体に与えるインパクトを深掘り分析します。
1. Impact Summary (インパクト要約)
結論:中長期的な「ストロング・バイ(Strong Buy)」材料
今回のニュースは、単なるアナリストの目標株価引き上げにとどまらず、半導体サイクルの「質的な変化」を示唆しています。AI半導体の微細化競争において、KLAが提供する歩留まり(イールド)管理ソリューションが不可欠であることが再確認された形です。
- 短期的視点: 既に株価は高値圏にありますが、強力なカタリスト(材料)出現により、これまでのレンジを上抜けるモメンタムが発生しています。ただし、セクター全体への資金流入が一巡した後の調整局面は想定すべきです。
- 中長期的視点: 2027年のEPS予想が市場コンセンサスを大きく上回っている点は、現在のバリュエーションが正当化、あるいは割安であることを示唆しており、押し目は絶好のエントリーポイントとなります。
2. News Breakdown (ニュースの核心)
TDコーウェンの分析レポートにおける核心は、「メモリからロジック(ファウンドリ)への主役交代」と「成長率の加速」にあります。
ファウンドリ主導の成長シナリオ
レポートでは、2026年から2027年にかけての半導体製造装置(WFE)市場において、最先端ファウンドリ向け(主にTSMCやサムスン電子)の成長率が、メモリ向けを凌駕すると予測しています。
| カテゴリ | 2026-27年 予想CAGR(年平均成長率) | 背景要因 |
|---|---|---|
| ファウンドリ向け | 20% | AIチップの微細化(2nm/1.4nm)、Gate-All-Around(GAA)構造への移行による工程複雑化 |
| メモリ向け | 15% | HBM需要は堅調だが、設備投資の伸び率はロジックに劣後する見通し |
市場予想を上回る業績見通し
TDコーウェンはKLAの業績について、市場のコンセンサスよりもかなり強気な見通しを示しました。
- 2027年予想EPS: 50ドル(市場コンセンサス約44ドルに対し、約13.6%の上振れ)
- 目標株価: 1,800ドル(旧目標1,300ドルから約38%引き上げ)
この背景には、TSMC増益と560億ドル投資:AI半導体株への巨大な追い風でも解説した通り、TSMC等の主要顧客が最先端プロセスへの巨額投資を継続している事実があります。微細化が進めば進むほど、欠陥検査を行うKLAの装置への依存度は高まります。
3. Valuation & Fundamentals (企業価値への影響)
KLAの強みは、半導体製造装置メーカーの中でも特異な「プロセスコントロール(検査・計測)」という立ち位置にあります。
「歩留まり」こそが利益の源泉
AIチップの製造難易度は指数関数的に上昇しています。微細なゴミやパターンのズレが致命的な欠陥となるため、製造工程のあらゆる段階で検査を行う必要があります。
- AMATやLam Researchとの違い: これらは「回路を作る(成膜・エッチング)」装置が主力ですが、KLAは「正しく作れているか監視する」装置で独占的地位(市場シェア50%超)にあります。
- 価格決定力: 競合が少ないため、KLAは高い粗利益率(Gross Margin)を維持しており、これが高収益体質の基盤となっています。
バリュエーションの再考
TDコーウェンの提示した「2027年 EPS 50ドル」を前提にすると、現在の株価水準(仮に1,300-1,400ドル近辺とした場合)のPERは26倍〜28倍程度となります。
- KLAの過去5年平均PERレンジは20倍〜25倍程度でしたが、AI特需による成長加速を加味すれば、30倍〜35倍のプレミアム評価が許容されるフェーズに入りつつあります。
- 目標株価1,800ドルは、EPS 50ドル × PER 36倍という野心的な評価にも見えますが、成長率(CAGR 20%)を考慮すればPEGレシオ的には過熱感はありません。
関連記事: NVIDIA中国需要で年500億ドルの上振れ試算の記事でも触れたように、AIチップ需要の底堅さは、そのまま製造プロセスの監視需要(KLAの収益)に直結します。
4. Chart Analysis (テクニカル)
テクニカル面での現状と、ニュース後のシナリオを分析します。
現在地とトレンド
- KLAの株価は、AIブームを背景に右肩上がりの上昇トレンドラインを形成しています。
- 今回の格上げニュースは、株価が移動平均線から乖離しすぎず、健全な調整を経たタイミングで発表されました。
シナリオ分岐
- ブレイクアウト: 直近高値を更新し、青天井モード(Price Discovery)に入るパターン。1,800ドルという高いターゲットが投資家の心理的な天井を引き上げ、ショートカバー(空売りの買い戻し)を誘発する可能性があります。
- 押し目形成: 原油急落とTSMC好決算:米GDP堅調でS&P500は6950攻防で触れたように、市場全体が「適温相場」にある一方で、セクターローテーションによる一時的な調整も起こりえます。1,250ドル〜1,300ドル近辺のサポートラインまで調整すれば、リスクリワードの非常に良いエントリー機会となります。
5. Conclusion (投資判断)
KLAへの投資判断は、もはや「半導体サイクル」への賭けではなく、「半導体製造の複雑化」への投資と言えます。
投資家へのアクションプラン
-
保有者 (Holders):
継続保有を強く推奨します。目標株価1,800ドルへの引き上げは、現在の保有ポジションの正当性を補強するものです。TSMCやサムスンの設備投資計画に変更がない限り、売る理由は見当たりません。 -
新規購入検討者 (Buyers):
「買い」判断ですが、高値掴みを避けるため、資金を分割して投入する(ドル・コスト平均法的なアプローチ)のが賢明です。市場全体のボラティリティが高まった際の押し目は、積極的に拾うべき局面です。
リスク要因
唯一最大の懸念材料は「対中輸出規制」の強化です。KLAにとって中国は依然として重要な市場であり、規制強化は短期的な収益圧迫要因となります。しかし、TSMC増益と560億ドル投資の記事で解説した通り、非中国地域(米国、日本、欧州)でのファウンドリ建設ラッシュがこの穴埋めを行う構造になってきています。
総じて、今回のTDコーウェンによるアップグレードは、KLAがAIインフラ構築の「影の主役」であることを再認識させる重要なイベントと捉えるべきでしょう。


