2026年1月13日の東京株式市場は、衆議院解散観測を背景とした「高市トレード」の再燃と、地政学リスクの高まりが交錯する極めてボラティリティの高い展開となりました。特に市場の関心を集めたのは、第一稀元素化学工業(4082)をはじめとするレアアース(希土類)関連銘柄の爆発的な上昇です。
本記事では、直近5営業日で株価が約2倍近くに跳ね上がった急騰劇の背景を分析し、同時に露呈した内需株の脆さと今後の投資戦略について、専門アナリストの視点から深掘りします。
1. Impact Summary (インパクト要約)
結論から述べると、現在の相場は「国策・資源株への短期資金集中」と「コスト転嫁力のない内需株からの資金流出」という二極化が鮮明です。
- レアアース・非鉄金属セクター: 【短期:強気(投機的) / 中期:中立】
- 中国の輸出規制リスクを背景とした「国策買い」は強力ですが、5日間で87.5%という上昇率は明らかに過熱しており、テクニカル的な調整リスクが高まっています。しかし、経済安全保障がテーマである以上、押し目は買いの好機となる可能性があります。
- 内需・サービスセクター: 【短期:弱気 / 中期:選別が必要】
- インフレ(固定費増)を価格転嫁できない企業は、業績悪化が株価にダイレクトに反映されるフェーズに入りました。
この二極化は、長期金利2.16%へ急騰:銀行株「買い」不動産「売り」の決定打かでも指摘した通り、金利上昇とコスト高が企業体力を削ぐ「選別相場」の到来を意味しています。
2. News Breakdown (ニュースの核心)
何が起きたのか:政治と地政学の連動
今回の市場変動のドライバーは以下の2点です。
- 衆院解散観測と「高市トレード」:
- 積極財政や経済安全保障を掲げる高市早苗氏への期待感(高市トレード)が市場で再燃。これにより、防衛関連や重要物資のサプライチェーン関連株にプレミアムが付与されています。
- 中国によるレアアース輸出規制の思惑:
- 地政学的緊張が高まる中、中国が戦略物資であるレアアースの輸出管理を強化するとの観測が浮上。これを受け、「代替技術」や「リサイクル技術」を持つ日本企業への再評価が急速に進みました。
1月13日の象徴的な値動き
市場の資金シフトは、以下の銘柄群の対照的な動きに集約されています。
| 銘柄コード | 企業名 | 前日比 | 騰落率 | 直近動向の背景 |
|---|---|---|---|---|
| 4082 | 第一稀元素化学工業 | +400円 | +23.12% | 直近5営業日で+87.50%。ジルコニウム化合物のトップメーカーとして、資源リスク回避の筆頭格に。 |
| 5707 | 東邦亜鉛 | +300円 | +28.33% | 非鉄金属セクターへの連想買い。値上がり率ランキング1位を記録。 |
| 2734 | サーラコーポレーション | -78円 | -10.42% | 26年11月期の営業益15.4%減益見通しを発表。エネルギーコスト上昇が重荷。 |
| 2157 | コシダカHD | -65円 | -5.74% | 第1四半期は増収なるも減益。人件費・光熱費などの固定費増を嫌気。 |
3. Valuation & Fundamentals (企業価値への影響)
レアアース関連:バリュエーションの正当化
第一稀元素化学工業(4082)の急騰は、単なる仕手戦(投機的な動き)と片付けるべきではありません。
- 戦略的価値の向上: ジルコニウム化合物は、自動車の排ガス浄化触媒や燃料電池、電子材料に不可欠です。中国依存度を下げる「経済安全保障」の文脈において、同社の技術力(世界シェアトップクラス)は、PBR(株価純資産倍率)などの従来の指標では測れない「有事のプレミアム」が乗る局面です。
- 業績インパクト: 短期的には思惑先行ですが、実際に供給網の混乱が生じれば、代替需要による受注増と製品単価の上昇(マージン拡大)が期待できます。
関連記事: 中東情勢の緊迫化に伴う資源株への資金シフトについては、イラン報復警告:原油・防衛株「短期買い」と物流危機リスクでも詳しく解説しています。
内需株:インフレ耐性の欠如
一方で、サーラコーポレーション(2734)やコシダカHD(2157)の下落は、構造的な問題を浮き彫りにしました。
- コストプッシュ型の減益: 売上高が増加しても利益が減る「増収減益」は、企業がコスト上昇分を顧客に転嫁できていない証拠です。特にコシダカHDのようなサービス業は、人件費と光熱費の高騰が利益率を圧迫し続けています。
- インバウンド需要の剥落懸念: 内需の一角を支えていたインバウンド需要についても、訪日客48%減予測:JAL・三越伊勢丹らインバウンド株に売り圧力で触れた通り、中国経済の減速等による先行き不透明感が重石となっています。
比較分析:価格決定力の差
| 項目 | 資源・素材関連(第一稀元素など) | 内需・サービス関連(コシダカHDなど) |
|---|---|---|
| 価格転嫁力 | 高(BtoB、需給逼迫時は価格転嫁しやすい) | 低(BtoC、値上げは客離れに直結するリスク) |
| 市場テーマ | 国策、経済安保、インフレヘッジ | 個人消費、リオープン(一巡感あり) |
| 投資家の目線 | 成長期待・リスクヘッジ | 利益率維持への懸念 |
4. Chart Analysis (テクニカル分析)
第一稀元素化学工業(4082):パラボリックな上昇
- 現状: 5日間で+87.5%という上昇は、典型的な「バイイング・クライマックス(買いの絶頂)」の形状に近い動きです。日足チャートでは移動平均線からの乖離率が極大化しており、RSI(相対力指数)も90を超える超買われすぎ水準と推測されます。
- シナリオ:
- アップサイド: ストップ高を連発するような「青天井」モードに入っていますが、出来高を伴ってさらに上値を追う展開。
- リスク: 政治情勢(解散時期の先送りなど)の変化一つで、梯子を外される急落リスクがあります。「初押しは買い」と言われますが、ボラティリティが高すぎるため、通常のテクニカル指標が機能しにくい状態です。
内需株(サーラ・コシダカHD):下値模索
- 現状: 決算発表をきっかけに重要なサポートライン(支持線)を割り込んでいます。特にサーラ(2734)の-10%超の下落は、投資家が「来期業績への不信感」を強く持ったことを示唆しており、戻り売り圧力が強いチャート形状です。
5. Conclusion (投資判断)
今回のニュースと市場反応を踏まえた、投資家へのアクションプランは以下の通りです。
① レアアース・資源関連(第一稀元素、東邦亜鉛など)
- アクション: トレーディング(短期売買)に徹する。
- 理由: 現在の株価上昇はファンダメンタルズの変化を先取りしすぎています。しかし、トレンドは強力です。保有者は利益確定を少しずつ進めつつ(トレイリングストップの活用)、新規参入する場合は「逆指値」を必須とし、日中の急落に備える必要があります。長期保有目的であれば、熱狂が冷めた後の調整局面(例えば上昇幅の半値押しなど)を待つのが賢明です。
② 内需・サービス関連(サーラ、コシダカHDなど)
- アクション: 「売り」または「様子見」。
- 理由: コスト構造の変化に対する有効な打つ手が見えるまでは、株価の底打ちは遠いと予想されます。単に「株価が下がったから割安」と判断してナンピン買いをするのは危険です。次の四半期決算で「値上げによる利益率改善」が確認できるまでは、資金を振り向ける優先度は低いでしょう。
総括
「高市トレード」の本質は、強い日本(防衛・資源・先端技術)への回帰です。このテーマに乗れない銘柄、特にインフレを味方にできない企業からは資金が流出し続けます。ポートフォリオを見直し、「価格決定力」を持つ企業、あるいは「国策」に沿った企業へのシフトを検討すべき局面と言えます。


