トランプ米大統領が2027年度の国防予算として、従来の想定を大幅に上回る「1.5兆ドル」を要請したことは、防衛セクターにとってゲームチェンジャーとなるイベントです。この「ドリーム・ミリタリー(理想の軍隊)」構築への強い意志表示を受け、ノースロップ・グラマン(NOC)やロッキード・マーチン(LMT)などの主要防衛株は軒並み急騰しました。
本記事では、このニュースが単なる一時的なセンチメント改善にとどまらず、防衛産業の収益構造を根本から変える「スーパーサイクル」の起点となり得るのか、ファンダメンタルズと株価へのインパクトを分析します。
1. Impact Summary (インパクト要約)
結論:強力な「買い」シグナルだが、銘柄選別が重要
今回の1.5兆ドル予算案は、市場コンセンサスを50%近く上回るポジティブ・サプライズであり、防衛セクター全体にとって極めて強力な「買い材料」です。
- 短期視点(Positive): 地政学リスク(ベネズエラ、グリーンランド等)と予算増額という「実弾」が揃ったことで、資金流入が加速しています。ショートカバー(空売りの買い戻し)を巻き込んだ急騰が見られます。
- 中長期視点(Positive): 受注残(バックログ)の積上げが数年単位で確約される可能性が高まりました。特に、次世代技術や宇宙分野に強みを持つ企業への恩恵は計り知れません。
ただし、議会承認プロセスでの減額リスクは残るため、全ての銘柄が無差別に上昇し続けるわけではありません。開発リスクの低い既存プラットフォームを持つ企業や、無人機などの成長分野に特化した企業の選別が必要です。
2. News Breakdown (ニュースの核心)
「1.5兆ドル」が意味するもの
トランプ大統領はSNSを通じ、2027年度の国防予算を従来の1兆ドル案から1.5兆ドルへ引き上げるよう要請しました。この5000億ドルの上積みは、単なるインフレ調整ではなく、米軍の質的・量的拡大を意味します。
背景にある地政学トリガー:
今回の予算増額要請は、唐突なものではありません。以下のような具体的な地政学的緊張が背景にあり、市場はこれを「正当化された予算増」と受け止めています。
- ベネズエラ情勢の急変: マドゥロ大統領の拘束と、同国原油の米国による管理表明。南米における米国の軍事プレゼンス拡大が必要不可欠となっています。
- 北極圏の緊張: グリーンランド買収への再言及は、北極圏におけるロシア・中国への対抗策を暗示しており、寒冷地装備や監視システムへの需要を喚起します。
市場の反応:大型株から中小型株まで全面高
ニュース発表直後の市場反応は劇的でした。
| 銘柄 | ティッカー | 騰落率 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ノースロップ・グラマン | NOC | +8.3% | 戦略爆撃機B-21、宇宙防衛 |
| ロッキード・マーチン | LMT | +7.9% | F-35戦闘機、ミサイル防衛 |
| クレイトス | KTOS | +12.0% | 無人機(ドローン)、防衛システム |
| RTX | RTX | +4.8% | 航空エンジン、ミサイルシステム |
特に、次世代兵器開発に強みを持つNOCや、コスト効率の高い無人機を手掛けるKTOSの上昇率が際立っています。
3. Valuation & Fundamentals (企業価値への影響)
1.5兆ドルという数字が現実のものとなれば、防衛企業のファンダメンタルズは劇的に改善します。
EPS成長率の上方修正
これまで市場は、米国の財政赤字懸念から国防予算の伸び悩みを想定していました。しかし、今回の発表により、主要防衛企業の2027年以降のEPS(1株当たり利益)成長率予測は、従来の年率5-7%程度から、10-12%台へ上方修正される可能性が高いです。
特に恩恵を受けるのは以下の2社です。
ノースロップ・グラマン (NOC)
戦略核抑止力の中核となる次世代ステルス爆撃機「B-21 レイダー」の開発・製造を主導しています。予算増額の「質的向上」部分が直結する銘柄であり、今回の+8.3%の上昇は、開発予算の確保に対する安心感を反映しています。
クレイトス・ディフェンス (KTOS)
「ドリーム・ミリタリー」構想では、有人機と無人機の連携(Manned-Unmanned Teaming)が鍵となります。低コストで消耗可能な無人機を製造するKTOSにとって、予算規模の拡大は受注量の爆発的な増加(Volume Growth)を意味します。
グローバル・ピア(同業他社)への波及
米国の軍拡姿勢は、NATO諸国や同盟国に対しても国防費の増額圧力を強めます。これは米国企業だけでなく、欧州や日本の防衛企業にとっても追い風です。
- 欧州: レオナルド(伊)やラインメタル(独)などが連れ高となっています。トランプ政権によるNATO負担増要求は、結果として欧州独自の防衛産業強化につながります。
- 日本: 三菱重工業(7011)も+2.4%上昇。日米同盟強化の流れの中で、ミサイル防衛や次世代戦闘機開発での連携深化が期待されます。
4. Chart Analysis (テクニカル)
明確なブレイクアウト
主要防衛株のチャートは、長期間の保ち合い(コンソリデーション)を上抜ける「ブレイクアウト」の形状を示しています。
- NOC/LMT: 過去最高値圏へ突入。出来高を伴った大陽線が出現しており、機関投資家の実需買いが入っていることを示唆しています。
- RSI(相対力指数): 日足ベースでは70を超え「買われすぎ」水準に入りつつありますが、強力なトレンド発生時は80付近まで上昇を続けることが多く、早急な利食いは機会損失につながるリスクがあります。
押し目の目途
急騰後の短期的な調整(プルバック)は想定内です。ニュース発表前のレジスタンスライン(上値抵抗線)が、今度は強力なサポートライン(下値支持線)として機能するかどうかが、上昇トレンド継続の試金石となります。
グリーンランド関連の地政学リスクが高まる中、欧州防衛株の動向もテクニカル的な連動性を高めています。
* 関連記事: グリーンランド再軍備:欧州防衛株へ138億ドルの「追い風」
5. Conclusion (投資判断)
トランプ大統領の1.5兆ドル予算案は、防衛セクターにおける新たなスーパーサイクル(長期上昇相場)の号砲であると判断します。
投資家への提言
- 既存ホルダー: Strong Hold(強気継続)。利益確定を急ぐ必要はありません。地政学リスクが顕在化している現在、ポートフォリオのヘッジとしても機能します。
- 新規購入検討者: Buy on Dips(押し目買い)。現在の急騰を追うのではなく、議会での予算審議に関するネガティブなヘッドライン(減額観測など)で株価が一時的に調整した局面を狙うのが賢明です。
ターゲット選定
- コア銘柄: ロッキード・マーチン (LMT)、ノースロップ・グラマン (NOC) —— 安定性と配当を重視。
- サテライト(成長)銘柄: クレイトス (KTOS) —— 高いボラティリティを許容できるなら、大きなキャピタルゲインが期待できます。
世界的な緊張の高まりは残念なことですが、投資家としてはこの現実を直視し、国防予算拡大というメガトレンドに乗ることが資産防衛の最善策となるでしょう。


